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千葉地方裁判所 平成2年(わ)789号 判決 1990年8月06日

主文

被告人を懲役七月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してある変造テレホンカード一枚を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成二年五月二九日午前九時四三分ころ、千葉県成田市三里塚字御料牧場一番地の一所在の新東京国際空港旅客ターミナルビル北棟四階において、通話可能度数が正規の度数以上に改ざんされた日本電信電話株式会社作成にかかるテレホンカード一枚を、同所に架設された日本電信電話株式会社成田支店管理にかかる公衆電話機(公衆電話番号六二〇番)のテレホンカード挿入口に挿入し、もって変造有価証券を行使したものである。

(証拠の標目)《省略》

(補足説明)

テレホンカードに関しては、その有価証券性などについて、議論のあるところなので、有罪と認定した理由を説明する。

(一)  刑法において有価証券とは、財産上の権利が証券に表示され、その権利の行使にその証券の占有を必要とするものをいうと解される。テレホンカードはカード式公衆電話機を利用できる財産上の権利を表示したものであり、かつ、その権利の行使には、これを占有していることが必要とされる。有価証券であるためには、その証券にいかなる内容の権利が化体されているのか認識可能であることを要するが、本件テレホンカードの表面には、「NTTホワイトテレホンカード50」と記載されており、外観上テレホンカードであることは明白であり、未使用の場合の利用度数を券面に表示しているとともに、本件テレホンカードをカード式公衆電話機に挿入することにより、残度数を表示させることができるから、本件テレホンカードは刑法上の有価証券であると認められる。

(二)  有価証券の変造とは、権限を有しない者が真正に成立した他人名義の有価証券に、ほしいままに変更を加える行為をいうと解される。テレホンカードは、そのカード上に記載され、読み取ることのできる表示部分と、読み取ることのできない通話可能度数情報の印磁された磁気部分とからなり、右磁気部分はカード上に表示されている権利内容を補完し、これと一体としてテレホンカードの権利表示の一部を構成しており、右磁気部分はカードの権利内容に関する重要部分を構成しており、これを権限なく改ざんすることは、有価証券の変造に該当するから、本件テレホンカードは変造有価証券であると認められる。

(三)  有価証券の行使とは、その用法に従って真正なものとして使用することをいうが、テレホンカードの場合には、これをカード式公衆電話機に挿入することが、本来の用法に従った使用であるところ、日本電信電話株式会社(以下「NTT」という)が設置したシステムにより、テレホンカードを用いてカード式公衆電話を利用できるものであり、変造テレホンカードを公衆電話機に挿入して使用することは、設置者であるNTTの担当者に対し、電話機を介して、変造テレホンカードを真正なカードとして行使するものと評価でき、判示所為は変造有価証券の行使に該当し、右は既遂であると解される。

(四)  なお、コンピューター犯罪に対処するため、昭和六二年に「刑法等の一部を改正する法律」(法律第五二号)によって、各種規定が新設されたが、右一部改正は、刑法における有価証券偽造ノ罪(刑法第一八章)の規定の解釈に影響を与えるものではなく、判示所為が変造有価証券行使罪に該当すると解することの妨げになるものではないと解される。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一六三条一項に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役七月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、押収してある変造テレホンカード一枚は判示犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属せず、偽造部分と真正部分とは不可分一体をなしているから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋哲夫)

<以下省略>

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